抜歯などを行うときに注意を要する内科的薬剤
さまざまな医科的疾患のため処方され服用されている薬剤のうち、抜歯などの歯科、口腔外科的手術や歯周治療を行う際に特に注意を要する薬剤についてご案内いたします。
高齢化社会が進む現在では多くの患者様が脳梗塞などの脳血管障害、不整脈などの循環器疾患のため抗血栓薬や降圧剤を服用されています。また骨粗しょう症にて骨吸収抑制薬を服用、使用されている患者様も急増しています。
骨粗しょう症に関してはこちらのページをご参照いただければ幸いです。
以下は抗血栓薬と歯科治療の関係を中心にご説明いたします。
抗血栓薬による薬物療法
抗血栓療法は抗血小板療法、抗凝固療法、血栓溶解療法などに分類されますが、今回は抗血小板、抗凝固療法に関する薬剤についてご紹介します。
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抗血小板薬(血小板凝集抑制→動脈血栓を抑制)
主な薬剤名:バイアスピリン・プラビックス・プレタールなど
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抗凝固薬(凝固因子活性抑制→動静脈血栓を抑制)
主な薬剤名:以前ではワーファリン(ワルファリン)による抗凝固療法が大半を占めていましたが、近年では新しく直接作用型経口抗凝固薬(プラザキサ・イグザレルト・エリキュース・リクシアナなど)が開発され、服用されている患者様が増加しております。
ワーファリンと、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC : direct oral anticoagulant)の特徴について
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ワーファリン
- 強力な抗凝固作用あり。血液が固まりにくくなる。
- 出血のリスクがある (ワーファリンの出血率 2.1~3.6%/年)
- 利点 長年使用されてきた経験,安価
- 欠点 使用にあたり定期的な血液検査と細かい調節が必要、ビタミンKを多く含む食品(納豆,青汁等)で作用減弱
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DOAC
- ワーファリンの欠点を補うために新規薬開発、食事の影響を受けない(納豆を食べてもいい)、モニタリングが不要
- 脳梗塞予防効果 ワーファリンと比べて同等か、それ以上
- 大出血発現率 ワーファリンと同等か、それ以下
- 頭蓋内出血 大幅に減る
- 薬物相互作用が少ない
抜歯などの手術を行う際の抗血栓薬継続、休薬について
以前は抜歯を行う際にはこれらの抗血小板薬、抗凝固薬はすべて休薬して実施することが一般的でした。
ただし現在ではその考え方は見直され、服用薬剤の種類、実施する外科的処置の侵襲の程度などによりカスタマイズした対応を行うことが一般的になっています。
下記に複数の学会がまとまって提唱した、
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン/2009年改訂版からの抜粋を紹介します。
- 抜歯はワーファリンを原疾患に対する至適治療域にコントロールした上で、ワーファリン内服継続下での施行が望ましい。
- 抜歯は抗血小板薬の内服継続下での施行が望ましい。
- 体表の小手術で、術後出血が起こった場合の対処が容易な場合は、ワーファリンや抗血小板薬内服継続下での施行が望ましい。
- 体表の小手術で出血性合併症が起こった場合の対処が困難な場合、ペースメーカーの植え込み、及び内視鏡による生検や切除術等への対処は大手術に準じる。
当院での抜歯などの外科処置に対する抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の考え方
各種抗血栓薬を服用されている患者様に対して抜歯などの外科処置を行う際の当院での考え方をご紹介します。
まず抗血小板薬は継続したままで治療を行います。
最も重要なことは
当院を受診される前にご自身の判断で上記の薬剤(抗血小板薬、抗凝固薬)を服用中止、休薬されることは、中止による副作用、血栓形成などのリスクがあるためお控えください。
ご来院時に処置内容にあった服薬の方法をご案内をさせて頂きます。
もし初診当日に外科的処置をご希望の場合にはお薬手帳と直近の血液検査データをご持参下さい。なお事前に処方医の先生にお問い合わせ頂けますとさらに安心です。
まとめ
- ワーファリン服用患者様の場合は処置内容と最近のINR値が重要
- 基本的に抜歯など処置を行う場合には、INR値 2.5以下の状態を基準とする
- 必要に応じて抜歯後の縫合やパックなどによる局所止血処置を行う
- DOACは抜歯の1,2日前から休薬が望ましいが、現時点では服用継続のままで口腔外科的処置を行う
- 手術などに関する明確なエビデンスなし、中和薬も一般的ではないため、現在意見の一致をみない
- DOAC休薬による血栓のリスクあり
- バイアスピリンなどの抗血小板薬は休薬しない
- 必要に応じて抜歯後の縫合などの局所止血処置を行う
- 狭心症などの治療でステント(薬剤溶出型ステント:DES)を留置され、アスピリン+クロピドグレルなどによる複数の抗血小板併用療法(Dual Antiplatelet Therapy:DAT)を受けておられる患者様の場合には積極的な手術の実施は特に注意を要する。